tank!

生きている限り、希望を持ちづつけられるんですってよ

お好み焼き

なじみのお好み焼き屋さんの店主が亡くなった。
たまたま昼に前を通りかかったとき、なんならランチをそこにしようかくらいの気持ちで通ったとき、店の前に張り紙がしてあった。

店主は女性で、小柄で白髪のおばあちゃんだった。真っ赤な口紅をつけて、おしゃれなセーター姿でお好み焼き作ってた姿が印象的だった。
たいてい僕が頼むのはエビ玉とビール。いわゆる広島風とよばれる部類のお好み焼き。ビールの銘柄はクラッシックラガーのみ。小瓶と中瓶が小型の冷蔵庫の中で冷やされていて、客はセルフで取り出すスタイル。おなかに余裕がある時は、とんぺい焼きも頼んでた。カラシとケチャップで味付られたとんぺい焼き、本当においしかった。僕は混んでる時間帯を避けて行っていたこともあり、いつも世間話をしながら食べていた。店主は口が悪くて、いつも「最近のテレビ番組はうるさいだけ」とか「あの俳優は好かん」とか、そーゆー話が多かった。焼き終わった店主は客席の端に座り、タバコに火をつけて一服。以前は缶ピースだっだけど、最近はカプリを吸ってた。背筋は伸びていて、クールなんだけど時折見せる笑顔がチャーミングだった。夏に行くと、たまに、食後のオヤツに冷やしたミカンをサービスしてくれてた。おいしかった。

 

1月12日に亡くなったそうだ。張り紙の主は、その店の建物の大家だった。親族はいないのかもしれない。元々店を始めたのはご主人らしいが、僕が通い始めるずっと前にご主人は亡くなっており、それから女手一つで店を守ってきていたそうだ。深夜、デンカフェの帰りに店の前を通るといつも店の明かりがついていた。住宅兼店舗だったので、きっと、1階の店のテレビでドラマかなんか見てたんだろう。一人で店を守り、店で暮らし、最近のテレビの愚痴をこぼしながら、ずっとお好み焼きを焼いてきたんだろう。

 

悲しい、とは違う。残念、に近いかな。
もうあの味に会えない。あんなに居心地の良い空間はもうない。
あの建物はどうなるんだろう。壊して、コインパーキングかなんかになっちゃうのかな。僕にはどーしようもできないことだけど、もし、そうなったらさみしいな。
訃報を知らせる張り紙に気づいたとき、驚きで固まってしまった。すぐには理解できず呆然としていると、張り紙の斜め上の電気メーターに気が付いた。「送電停止中」的な電力会社の紙が貼られてあった。この店の歩みが止まってしまったことを、はっきりと叩きつけられた瞬間だった。
もうテレビはつかない。ビールもミカンも冷えない。

 

残念。とても。そして、我が身のいろんなことを考えたりも、した。